宣言文Declaration

第8回大会 仁川宣言・2014

アジアの多様性における一致と調和 Unity and Harmony in Asia

アジア宗教者平和会議(ACRP)は、真理・正義・人間の尊厳を信条とし、それぞれの国やアジア太平洋地域、そして世界全体の平和と諸宗教間の調和に向けて活動を続ける、神仏と交わり、神仏と共に生きる宗教者の世界最大の地域組織である。アジア宗教者平和会議は、1976年の創設以来、国際組織であるレリジョンズ・フォー・ピース・インターナショナル(世界宗教者平和会議国際委員会)と協働して活動している。

第8回大会は、2014年8月25日から28日まで、韓国・のコンベンシアで開催された。本大会にはアジアの15カ国:オーストラリア、バングラデシュ、カンボジア、中国、インド、インドネシア、イラク、日本、大韓民国、モンゴル、ネパール、パキスタン、フィリピン、スリランカ、タイが参加した。本大会の開催中、新たにマレーシアとミャンマーの2カ国がACRPのメンバーとして承認された。

本大会は、大韓民国政府が同国文化体育観光部を通じ、本大会への財政的支援と諸宗教間対話への不断の取り組みに力を惜しまれなかったことに対し、心から謝意を表した。

ACRPは、人類の多様性を顕著あらしめる最も偉大な文化的・言語的・精神的遺産の多くを有するアジア太平洋地域を包合する。2014年1月1日現在、世界の総人口は71億3900万人に達し、その60%にあたる41億6600万人が中国とインドを筆頭にアジアに住んでいる。世界経済の生産高の半数近くをアジア太平洋地域が担っている。それゆえ、平和と発展はアジアのみならず、世界全体にとってきわめて重要な課題である。

第8回大会の総合テーマは、「アジアの多様性における一致と調和」であった。世界の主要な宗教伝統の発祥の地であるアジアは、守るべき真正な価値、徳行に関する不変の基準、心の奥深くまで根差した精神的態度、人類の一致の基礎となる一切の事柄をめぐっての応答を形成する上で特別な場所である。アジアは霊性に満ちている。聖なる存在からの贈り物である霊性は、多くの表現に彩られた多様なアジアを一つに導く超越的な力である。それは人間の心の奥深くに内在する、より高度の資質をさらに高みへと導く力であり、すべての宗教伝統において証明され、かつ顕現されているように、その力によって我々は偉大な愛・慈悲・奉仕にふさわしい価値ある役割を果たす存在となるのである。

アジアの平和を求めて

本大会は、世界平和度指数で示されているように、アジアと中東に緊張が高まる中で開催された。本大会は、宗教指導者やその他の市民指導者の支持を受けているアジアの政治指導者に対し、アジア全体と朝鮮半島の平和実現に向け勇敢かつ先見的な行動をとるよう要請した。

大韓民国に一堂に会した宗教指導者は、アジア太平洋地域の国々の指導者に対し、互いの真摯な対話と国家間の和解に基づき、さらに必要があれば、積極的な信頼醸成策を講じた国家間の紛争解決を通して、国家間の平和実現に向け最大の努力をするよう要請した。戦争と紛争は、常に人間精神の敗北であり、何も生み出すものはなく、ただ苦しみと死をもたらすのみである。政治指導者たると宗教指導者たるとを問わず、あらゆる指導者は歴史を鏡として、歴史の負の重荷を克服し、平和な未来を招来させるための努力をしなければならない。

ACRPは、これを支援する一助として、アジアの宗教的遺産を再活性化し、創造的かつ重要な自覚を深め、平和・正義・人間の尊厳を追求するとともに、神仏と交わり、神仏と共に生きる宗教者に対し、共に手を携え平和の促進に向け協働する原動力を与えるという、ACRP本来の目標を実現するよう努力しなければならない。

ACRPは、多宗教から成る組織として、またレリジョンズ・フォー・ピース・インターナショナルの地域委員会として、2013年11月にウィーンで開催された世界宗教者平和会議の第9回世界大会のテーマ「他者と共に生きる歓び」に示された平和のビジョンを評価し、かつこれを支持する。「他者と共に生きる歓び」とは、相互に尊重し、受容し合うことである。本大会もまた、他の社会や宗教に属する人々および他国に対するヘイトスピーチが著しく増大している事実に憂慮を表明した。少数派たると多数派たるとを問わず、何ぴとであっても人間の尊厳・個人と社会の安全・一人ひとりの人間としての幸福は保証されなければならない。マスメディアおよびその他の諸種のメディアは、憎悪と敵意の増大を防止するために特別な責任を負っている。

アジア諸国に社会の絆と宗教間の調和を求めて

本大会は、多くの国々が国内に紛争や緊張を抱えていることに注目した。こうした問題は、正義と平等を不断に追求し、関連する国際人権規約に基づき、マイノリティーに対し適正な待遇を図ることによって解決されなければならない。本大会は、特に世界平和度指数に注目した。世界平和度指数によると、国家が平和であるには「平和の八つの柱」と呼ばれる8項目の主要な指標があるとされる。その8項目とは、(1)正しく機能する政府、(2)企業の健全な環境、(3)平等な資源の分配、(4)他者の人権の容認、(5)隣国との良好な関係、(6)自由な情報交流、(7)高水準の人的資本、(8)汚職の低減を指す。

宗教の自由は、個人の心滾る願望と社会の絆の基盤となるものである。本大会は、アジアの政治指導者および宗教指導者に対し、何ぴとも自己の信ずる宗教を基本的人権として、一切の制約を受けることなく信行の実践ができるよう保証し、かつこれを促進するよう強く要請した。こうした基本的人権には、国連の「世界人権宣言」および「市民的および政治的権利に関する国際規約」第18条に則り、自己固有の宗教伝統の中で子供を教育する権利、自己の宗教を改宗し、かつこれを選択する権利が含まれる。

3つの分科会の議論に基づき、本大会は宗教指導者に対し、それぞれの国の政府に対し奨励かつ支援し、先の平和の8つの柱、とりわけ障害を受けやすく危険な状態にある人々、特に女性と子供ならびに移民・難民・無国籍者の待遇に関し適切な政策と実際的な実施計画を開発するよう要請した。なかでも、児童労働・児童売買・児童結婚の害悪の禁止に対し、政府および宗教指導者が強力に関与するよう要請した。さらにまた、各国政府に対し、国際法に基づいた移民および難民の待遇に努め、無国籍者に関する国際規約に署名するよう要請した。

アジア宗教者平和会議(ACRP)のファミリーを構成するすべてのメンバーは、それぞれの国の社会と地球社会の開発にとどまらず、環境への配慮においても責務を分かち合っている。環境に対しほとんど配慮されることなく、開発が大量生産、大量消費という意味でのみ理解されてきたことは悲しむべきことであった。地球環境の保全・保護・修復の失敗は、社会的・経済的・宗教的平和に多大な影響を与えている。核による惨禍は、環境に対するいま一つの極度の危険を新たに与えるものである。

ACRPの女性指導者は、女性に影響を与えるさまざまな課題、すなわち女性に対する暴力、政策と政策の実施における性差による不平等、女子ならびに女性に対する差別、および女性が市民社会における平和的発展の実現に向けて公正に参画することの必要性等の問題が、いつでもどこにでも存在していることを指摘した。さらに、ACRPの女性指導者は、土地・労働・製品市場において女性の競争力がさらに強化されるよう提唱した。

急速な都市化が進むアジアには、世界の21の巨大都市のうち10都市が存在している。本大会は、宗教共同体が都市の居住環境と持続可能性を改善し、人々が人間としてふさわしい十全な生活を営み、労働に励み、休息で癒し、不自由のない環境を享受し得る場となるよう、それぞれの政府と協働するよう要請した。

ACRPの青年指導者は、青年会議において、宗教は問題解決の一部になることができるが、他面、問題の一部でもあると指摘した。さらに、青年指導者は、国ならびに地域の宗教指導者が人権・民主政治・諸宗教間の関係・差別常態化の危険性について学ぶ教育の必要性を強く訴えた。

朝鮮半島の和解と一致

アジア宗教者平和会議の第8回大会の期間中、朝鮮半島の平和に関する特別ワークショップが「朝鮮半島の和解と一致」のテーマのもとで行なわれた。本大会は、朝鮮半島の分断を平和的に解決できる唯一の方法が対話・和解・協力であることを確認した。本ワークショップでは、非武装地帯における軍事的な行き詰まり、南北対話の難しさ、離散家族の悲劇、平和実現を目指す諸々の試みが特に論じられた。本ワークショップはさらに、ローマ教皇フランシスコが本年8月の韓国訪問の際にアジアの青年集会に向けて語った「朝鮮半島の再統一につながる最も明るい希望の道は、兄弟愛と赦しの心の中にある」という言葉に対し、支持を表明した。教皇は、「あなたがたは同じ言語を語る兄弟である。家族の中で同じ言葉が話されるとき、そこには人類の希望も存在する」と語った。ACRPの青年指導者は、朝鮮半島は一致を必要としており、朝鮮半島の祖父母の苦しみを理解しつつも、他方、韓国の富が減損するのではないかという議論について、これは誤れるものであって、受け入れるべきものではないというメッセージを支持し、かつこれを誓い合った。本特別ワークショップの公式声明は、本宣言文の末尾に提示されている。

提案

本大会において次の提案が出され、承認された。

1 ACRPは、緊急の課題として、人権と人間の幸福に合致した行動規範と併せ、使命と諸価値に関する宣言文を作成する。

2 ACRPは、執行委員会を通して特別な実務者を指名し、各国委員会の代表者の数と基準、および組織の機能のよりいっそうの効率化を確実にする方策に関し提言を検討し、これを策定する。

3 宗教共同体は、政治指導者および過激な宗教指導者による宗教のハイジャックおよび悪用を防止し、平和と調和の実現に向け真摯に立ち向かわなければならない。

4 各国委員会は、教育行政の関係者と協働し、平和教育が学校教育のすべての段階のカリキュラムの中に確実に取り入れられるよう取り組む。

5 ACRPは、宗教共同体と協力し、諸宗教ならびに多元社会の中で指導力を発揮し、専門的な事前および事中の実施計画の提供を通して、急速に発展する世界の中で生じる個人的・社会的課題に対処する力を備えた高度の技能と豊かな知識を持つ宗教指導者を育成する。

6 各国委員会は、ACRPの支援を受け、それぞれの政府と協働し、ヘイトスピーチから市民を守る反差別・反中傷法を制定する。

7 各国委員会は、ACRPの支援を受け、児童保護・女性教育の政策と実施計画を通して、児童労働・児童売買・児童結婚を含む、女性と子供に対するあらゆる種類の差別と暴力に反対する公共キャンペーンを促進する。

8 宗教指導者と宗教共同体は、移民・一時的契約労働者・難民・亡命者・無国籍者に対し、国内法および国際法による正当な待遇が与えられ、定住と融合化が可能となるよう実際的な実施計画を策定し、支援する。

9 各国委員会は、ACRPの支援を受け、地球環境の保全と修復のため、各国委員会のメンバーの一人ひとりが、少なくとも毎年1本の木を植える環境プログラムを立ち上げる。

10 ACRPは、アジアの諸都市を主な対象として、都市居住者の貧困や環境が都市に与える影響、および人々が人間の尊厳にふさわしい十全な生活を営み、労働に励み、休息で癒し、不自由のない環境を享受し得る場となる都市を作る上で宗教共同体の果たす役割について研究し、教育実施計画を開発する。

11 今後の大会を計画するにあたり、青年が大会を運営する委員会に参画することを可能にする。

本ACRP大会は、最後のセッションにおいて、事務総長を退任するキム・スンゴン博士の10年にわたる功績と献身に対し心からの感謝の意を表するとともに、次期事務総長として日本の畠山義隆師を選出した。また、共同会長が、オーストラリア、中国、インド、インドネシア、日本、大韓民国およびフィリピンから選出された。

本大会は、キム・テソン師と韓国宗教人平和委員会(KCRP)の導きのもとで、ACRP事務局が本大会の企画や参加代表の受け入れ、ならびに本大会の組織や運営のあり方において強力な支援を惜しまれなかったことに対し感謝の意を表した。特に韓国の芸術家たちによる伝統音楽、クラシック、ポップミュージックやダンスの華麗な演出に対し心から賞賛の意を表した。

最後に、本大会は、本年9月に開催される仁川アジア大会の成功を祈念するとともに、仁川市長と仁川市民に対し感謝の意を表した。

朝鮮半島平和宣言 

我々、アジアの宗教指導者は、1953年7月の朝鮮戦争休戦合意の署名以来、朝鮮半島における休戦状態を深く憂慮するものである。きわめて異常かつ不安定な政治体制の中で、戦争は61年の長きにわたり続いており、いまだ正常化に至る兆候はまったく見られない。

朝鮮半島の問題は、今日に至るまで、地政学のパラダイムやイデオロギーの紛争の見地から認識され、議論されてきた。しかし、我々、アジアの宗教指導者は、長きにわたって敵意を増幅させ、朝鮮半島状況に関する思考方法を支配してきた二項対立に対し特に注意を払いたいと思う。

二項対立的思考は、敵意の関係を生み出す。朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国は、これまで軍事的に互いに強い敵意を維持すると同時に、さまざまな局面で紛争を悪化させてきた。朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国の間の軍事的な緊張は、互いの政治体制における国内の政治的制約に転換させられている。人権と民主主義の後退、権力の世襲制と独裁主義体制の復活は、朝鮮半島に存在するこのような軍事的緊張関係がもたらした結果である。さらに、客観的真実を顧みない詭弁と自己中心性が、社会の調和・人権・調和ある開発・人間の尊厳・諸価値・信条・文化の多様性に深刻な危機をもたらしている。朝鮮半島にみられるこの二項対立は、真実を絶えず無視し続けているためますます悪化し、問題の内実化を進めるに至っている。もし我々がこの二項対立を克服し、多様性を受け入れられるようにならなければ、本質的に一つの民族としての朝鮮半島の成長と発展は、常に強力な敵意に阻まれることになろう。

朝鮮半島の人々を危険にさらす核の脅威よりさらに強大なものは、平和に導くさまざまな方法の許容を拒絶することである。多様性という樹木に唯一、花を咲かせることができるのは、平和と民主主義である。平和、民主主義および人間の諸価値は不可分であり、互いに密接に関係し合っている。共に繁栄を分かち合う共存とさまざまな異なる文化の調和が完全な均衡に至ったとき、はじめて平和はその花を咲かせるのである。

平和は生活の最低限の必要条件である。平和は休戦を意味しない。平和は日々の生活の安全を維持する不屈の意志である。

大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国は、互いに心から尊敬し合い、欺瞞ではなく、胸襟を開いて対話に尽くす体勢を整えなければならない。多様性に対する深い理解と友好的な尊敬、革新と熟慮、創造性と人道的な要素こそが、朝鮮半島における平和への道を進めるものでなければならない。何よりも、対立する当事者同士の間で心を開き、創造的な正義を模索する真の対話が追求されなければならない。その時にはじめて、平和に向けた未来が我々の前に開かれることになろう。それゆえ、我々、アジアの宗教指導者は、ここに次の通り宣言する。

1.大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国は、一切の条件をつけずに胸襟を開き、対話の歩みを進めなければならない。
2.大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国は、現在の休戦から和平合意への移行に合意し、あらゆる暴力の可能性に終止符を打たなければならない。
3.大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国は、多様性と人間の諸価値を尊重しなければならない。
4.大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国は、平和を最優先課題として協働しなければならない。