第1回大会 シンガポール宣言・1976
宗教による平和
Peace Through Religion
「アジア十七か国から十指にあまる世界諸宗教の代表者巨人を集めて開いたこの歴史的なアジア宗教者平和会議は、諸国民の間における公正かつ恒久的な平和のために、宗教と宗教協力が不可欠の西のであることをここに確信し、かつ宣言する。正義と平和の追求にあたり、われわれは、宗教的信仰の多様の中に、目的の一致をお互いに発見した。
われわれがつどうこのとき、アジアの多くの国で今なお、第二次世界大戦の記憶がさめやらず、また、それに続く局地的戦争の傷跡は癒やされていない。われわれがつどうこのとき、アジアはなべてなお危機的状況にあり、多くの国でなお、経済的な不均衡や搾取が存在して極度の貧困を招来し、自由を圧殺する権威主義やイデオロギー的文化的対立や少数民族問題が山積して、この全てが人間の苦悩をいや増している。
われわれはシンガポールの平穏と快適のうちに集うとはいえ、難民たちの嘆き、しいたげられたるもの、苦しめるものの怨嗟と苦悶、貧しきあの、捨てられたものの悲痛な叫び苦しみがわれわれの耳にこだまする。いつの日に人々は破滅の道に背を向けるのか。いつの目に、憎しみの炎は吹き消されるのか。いつの日に我執と貪欲は、やさしさと思いやりに道をゆずるのか。いつの日に静かなる理性の声が高慢と激情の怒号を制するのか。
はじめてのアジア宗教者平和会議につどうわれわれは、宗教間の理解と諸宗数の協力を、平和にいたる新たな道として開拓すべき使命を自覚する。また、アジアの地は多くの宗教や文化の発祥地、生育地として、幾世紀にわたりあまたの人々の道を照らす真理と英知のかがり火をとした。この遺産のうえに立ちながらわれわれは、アジアはおろか全世界にわたって人類を悩まし進歩の道をはばんでいる政治的、経済的、社会的、文化的諸問題の解決にあたっては何よりもまず宗数が大切であり、また宗教が究極的導き手となるというわれわれの信念をあらためて強調する。われわれの信奉する偉大な諸宗数は、地上に平和と正義を樹立するという目標をつねにともにしてきたと信ずるがゆえに、われわれはこの高貴な目的を追求するにあたって、愛と情誼と寛容の精神で、われわれのもてる諸力を結集しなければならない。
われわれは、今や過去の疑念と不信を投げ捨て、過去に根ざす偏見を克服し、各自の信仰の栄光と美点を互いに発見し、個人や国民の生活を豊かならしめる宗教の高貴な力を発見するために同じ屋根の下に集いえたことを喜ぶ。アジア宗教者平和会議における諸宗教間の対話を通してわれわれは偉大な予言者や賢者たちがすでにわれわれに平和と同胞愛の道を指し示していることを確信し、このアジアの宗教的遺産を生かして、アジアおよび世界の物質的、精神的福祉のため、そして、社会的不正、経済的不平等および、その他の平和への脅威となるものを根絶するために、溢れる人間的創意と、惜しみなく与える大地の豊かさを活用することがわれわれの使命であることを信ずる。ここにわれわれは、全ての宗教者に対し、過去の不信と現在の離間を悔い改め、より深い理解とより高い精神的一致を各宗教の内側で、また異なる宗教どうしの間で、さらに全宗教と実業、労働、政治、マスコミの世界の間に樹立すべくとに働くことを切に訴える。とりわけアジアでこそ、宗教による平和への呼びかけは全幅的応答を引き出すであろう。そこでわれわれはアジアの宗教者によって生活の態様を改めるための再教育を含めた新しい生活体制が確立され、そして、人間のもてる力が十全に発揚されるべきであると宣言する。人はパンのみによって生きるものではなく、したがって経済的正義は活発に追求されるべきであるとはいえ、霊的渇望の充足は一段と緊急な課題であり、これを達成することから、さらに恒久的な平和が生み出されるであろう。
われわれがここに集ったのは、アジアの現状に対する創造的批判的認識を深め、アッアの遺産を活かして平和の追求に向かわしめ、アジアの宗教者が平和への具体的努力を傾けるようにし、さらにアッアの宗教的視点から世界平和のための諸計画、諸展望を研究し評価するためにほかならない。われわれは、会議参加者として、これらの目的を達しえたと信ずるがしかしそれに満足するものではない。われわれはいずれの場所で人々を一段と現状に目覚めさせ、宗教的価値をとらえなおし、って宗教者を創造的活動に向かわしめるよう努力することを誓う。われわれは、宗教間、文化間の協力と融和の促進をあらゆるアッアの国々においてはかり、平和のために働く国際機関や政府および、民間の機関と協力することを誓う。
アジア的視点に立っ平和の理解は、平和を色って単に西ろもろの集団、階級、国家、宗教間における紛争の不在と言する消極性においてではなく、積極的に、人間的必要の充足から生ずる安寧、正義と自由の達成によってたらされる調和、人権の尊重と擁護、および人間の尊厳への尊敬から生まれる共同体的交わりとして理解する恋のであることを言明したいと思う。
討議のなかで、われわれは、現代世界における科学・技術のおそるべき影響力の増大を認識した。われわれは、宗教的見地からみて、科学・技術と伝統的宗教価値との間には衝突は存せず、したがって科学・技術は宗教的、人道的価値基準によって導かれるべきるのであり、これをもって人類を破滅に導く主人たらしめることなく平和のためのし.べとするようすべての人々に勧告する。
われわれは、人類の福祉のために技術を統制するという仕事は、今日アジアの直面する最ち重要な任務であり、試練の一つであると痛感する。アジアの宗数は、人間と自然の親密な関係を強調することにおいて、こうした課題に対して成功裡に立ち向かいうる力をもつ。
われわれは、平和の探求にさいして諸宗教間の対話を勧奨する。これによって単に諸宗教間の理解を促進するだけでなく、宗教間を規制し、宗教的激昂のもととなる誤解を避けるための倫理綱領の発展へ導かれるであろう。諸宗教の参加によるさまざまなかたちの冥想は、宗教間の交わりを発展させる接点として役立ちうるであろう。
われわれは、世界平和をたらすための青年、婦人の役割をより一そう強調すべきことをここに言明する。婦人は、世界人口の半ばを占め、またアジアでは背年は、ほとんどの国で人口の半ば以上をしめていることを想起すべきであろう。われわれは、全ての宗教に対して青年たちを霊的感化と教育と模範を否って導くように求める。われわれはまた、全ての宗教が婦人の地位を得検討し、性的差別の存する所ではその立場をあらため、機会と地位の平等化につとめるよう呼びかける。アジア宗教者平和会議のなかに諸宗数にわたる婦人組織、そしてまた青年組織を形成する必要が強力に存在するように思われる。
われわれは、各宗教が個別的にまた共同して、宗教教育の諸問題、特に、多宗教社会におけるそれらの問題をさらに研究する必要があることを管明する。全ての宗教は、その信者、特に青年に対して自らの宗教の教義と原理を教育する貴任がある。しかし、これが宗教機関においてのみなされるか、それと一国の公教育制度を通じて行なわれるかは、今後検討すべき問題である。われわれは、これを検討するために諸宗教からなる機関が設置され、やがて政府および宗教教育機関に対して一致した勧告をなしうるよう期待する。われわれは、この会議の継続事業の一部として、アジア宗教教育センターの設立が検討されることを勧告する。このセンターの事業は、アジア諸国における宗教と教育の関係を過去と現在にわたって研究しこの問題に関する情報を流し、平和教育に対する宗教の貢献を妨げている困難を克服する手段方法を提示するにある。宗教教育は、家庭に始まるのであるから、われわれは、宗教的教育の地ならしと種まきに家庭が責任をもつことを強調したい。
われわれはすべての男女に対して、子女の数を規制することだけでなく、かれらが託された子女の養育方法について、親としての責任を果すべきことを主張する。
経済問題は、世界の生活においてますます重要な役割を演ずるにいたり、かつまた、アジアの各地は多く悲惨と不正にさいなまれている。ゆえにわれわれは、一九七四年の国連資源特別総会が提案した、社会正義を基礎とする新国際経済秩序のすみやかな実現を主張する。われわれはまた、一九七六年、ナイロビで開かれた第四回国連貿易開発会議で採択されたような、共通基金によってまかなわれる一次産品総合プログラムを支持する。われわれはまた、開発途上国における多国籍企業の活動が、関係諸国の利益に反するばあい、その規制が望ましいことに留意する。
われわれは、アジアの大部分にみられる甚だしい農村の貧困について憂慮し、政府の努力を援助する基金や資源を持つ全ての宗教団体に対し、そのもてる資源を用いてなしうるところから社会の改善を早めるよう呼びかける。
われわれは、各国政府および国際機関が、政治的事情による難民およびその他の犠牲者を、とがなくして陥ったその絶望的な苦境から救うべくすみやかな行動をとるように訴える。
関係国連機関と協力して、人権侵害の情報を集め、状況緩和策を提案する特別委員会の設置が検討されることが望ましい。
われわれは、すべての国々で国連人権宣言を実施するために世論が動員されるべきであると考える。
世界平和のために、われわれはインド洋地域が非核平和地域たるべきことを主張し、超大国の対立がこの地域に新しい危険をもち込むことのないようにしたいと願う。
軍備への巨額な支出を深く憂慮して、われわれは、国際的合意による全面軍縮と武器取引の禁止を強く勧告する。
われわれは恒常的なアジア宗教協力センター設立の提案に大きな意義を認め、これが宗教教育センターの提案と関連して検討されることを提唱する。
最後にわれわれは宗教による平和を主題とするこの会議の成果と、そこで、われわれが互いに学びあった全てのことに感謝し、これが宗教協力への途上における里程標となることを切に望む。全ての人の心に、すべての家庭に、そして世界のすべてに平和あれかしと祈る。
一九七六年十一月三十日シンガポールにて