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2024/02/26

第2回東京平和円卓会議の意義〜会議を振り返って〜

報告 |

アジア宗教者平和会議事務総長の篠原祥哲は2月19日より行われた第2回東京平和円卓会議に出席しました。『諸宗教・各界による赦しと和解に向けたアプローチ』というセッションにおいて、紛争と暴力に対処するアジアの宗教指導者たちについて発表しました。

円卓会議終了後、篠原は会議を以下のように振り返りました。


2024年2月25日

第2回東京平和円卓会議の意義〜会議を振り返って〜
(WCRP日本委員会事務局長談話)
篠原祥哲

2月19日から3日間にわたってW C R P国際委員会、同日本委員会、国連文明の同盟による主催で「戦争を越え、和解へ」諸宗教平和円卓会議の第2回東京平和円卓会議が開催された。紛争地域から宗教指導者ら16カ国約100名が集った。この度の第2回円卓会議は、2022年に開かれた第1回円卓会議の「宗教者が平和構築の架け橋になること」、「戦争で引き裂かれたコミュニティを癒していく責任があること」、「宗教者間の協力を促進するために対話を継続すること」を謳った声明文に基づいて開催されたのである。

2月21日、第2回円卓会議は、暴力や紛争に対する宗教者の使命と役割を謳った声明文を採択して終了した。ここに開催の受け入れを行ったW C R P日本委員会事務局長として、第2回円卓会議の意義を報告する。

1.紛争状況にある両陣営の正式な宗教代表の出席

戦争状況にあるウクライナとパレスチナから、敵対していると考えられる両陣営の宗教指導者が、「戦争を越え、和解へ」というテーマの会議に出席したこと自体に意義があった。
特にウクライナ、ロシアからは前回第1回会議にも出席した宗教者が主要なメンバーであり、会議の目的が和解であるということを熟知した上での参加であった。またこれらの出席者は、個人としての参加ではなく、所属するそれぞれの組織から正式に派遣されたのである。さらに、ロシア正教会はロシア政府と密接な関係があり、他方、ウクライナの宗教者は、国外に出国する際、政府と軍から特別な許可を得る必要があり、今回もウクライナの宗教者は政府と軍に出国するための理由として、この会議の目的を伝えた上で出国が許されたのである。
このことは、両国政府が常に戦争継続の意思を表明し続けているが、他方で和解への道筋を求めている可能性を示すものであったとも考えられる。

2.声明文の採択

第1回円卓会議に続いて、この第2回円卓会議も出席者全員の合意によって声明文が採択された。出席者は粘り強く対話し、そして次の特徴をもつ声明文を採択したことは、会議の重要な成果であったと考えられる。

声明文は、まず宗教者が平和構築者としての自覚と戦争で引き裂かれたコミュニティの和解を育む責任があることを表明し、そして戦争と暴力を強く非難したのである。怒りと憎悪の感情がエスカレートし、強い敵対意識が蔓延る現在の紛争状況において、ウクライナとパレスチナのそれぞれの両陣営の宗教者が、このことを表明したことの意義は大きい。戦争終結に向けた宗教者の団結を示すこととなったのである。
また一人ひとりの尊厳と生命の神聖さが平等であることを確認した。これは、戦争状況であったとしても敵味方関係なく、全ての人間の尊厳を守ることを訴えたのである。戦争になれば、敵対する人々の人権と尊厳は無視され、そして蹂躙と迫害の対象となる場合が多いが、改めて、宗教者として平等なる人間の尊厳性を謳ったのである。

人道支援の非政治化も訴えた。これはガザ地区において人道支援が政治の駆け引きによって実施されなかったり、ウクライナにおいても人道活動が攻撃対象となる場合があった。この度の声明文において人道支援が政治と切り離されるべきことを訴えたのである。
兵器使用に関して、A Iなどを活用したあまりにも非人道的な兵器が使われていることに関して即時の停止を求めた。さらには、昨今、政治指導者から核兵器使用の言及がなされることがあるが、通常兵器とともに核兵器使用が許されないことも強調したのである。唯一の戦争被爆国の日本で開催された円卓会議であるが故に、この問題への強い関心を示した。

礼拝所、聖地などの宗教施設への安全な自由なアクセスが常に可能となるようにこれらの保護を求めた。戦争によって宗教施設が攻撃対象となる場合が多い。会議には所属している宗教施設が破壊された宗教者も出席していた。これは信教の自由の問題としても関連があり、どの国の宗教者であっても許されるものではない。宗教者だからこそ、この問題を強調したのである。

またメディアとの対話の必要性の認識を示した。戦争は様々な情報操作による虚偽情報、意図的な扇動報道、プロパガンダ、ヘイトスピーチなどの悪質な情報が飛び交う。こうした戦争におけるメディアのあり方について注意喚起を行い、メディアと対話する中で適切な報道を促すと訴えた。

そして宗教者の具体的行動として、敵味方関係なく子どもなど弱い立場にある人々への人道支援を実施すること。和解に向けた女性や若者による交流事業を実施すること。戦争によって引き裂かれた家族やコミュニティの団結と癒しを促進することを謳った。さらにこの平和円卓会議の継続的実施も明記した。
上記の具体的な行動を含む声明文を全員一致で採択できたのは、第2回円卓会議の明示的な成果である。

3.人間同士の信頼構築の高まり

この円卓会議は政治や安全保障などの会議ではなく、宗教者による会議である。宗教者の会議の特徴の一つは、神仏の教えを基にし、それぞれの教えを互いに共有し学び合いながら人類全体のあるべき姿を描き出して、共に行動を誓うものである。W C R Pは、こうした会議において大切にしてきた基盤となる共通の信念がある。それは「我々の幸福は本質的に共有されている。他者を助けることは、自分自身を助けることであり、他者を傷つけることは、自分自身を傷つけること」、「他者の安全が守られて、初めて自己の安全が保障される」という「共有される安全保障」という概念に対する信念である。この信念からすれば、いかに敵対同士で分断状況にあったとしても、一人ひとりのいのちは繋がっているという相互依存の関係を深く認識することが至極重要となるのである。

この円卓会議は戦争中におけるそれぞれの宗教者が一堂に集う場である。いかに和解を念頭に出席したとしても、敵対同士が容易に親密になることは非常に困難である。自国では何万人が犠牲になっている中で、宗教者だからといってすぐに打ち解け合うことは不可能であろう。家族、友人、知人の中に犠牲になられた人も存在しているかもしれない。あるいは祖国の被害の深刻さを憂い、強い憎しみの感情を抱くことが自然かもしれない。または、本人が和解の意志があったとしても、自国の周囲の人々の感情を気遣い、あえて敵対する国の宗教者との親密さを示すことを嫌い、距離を置くかもしれない。

しかし今回の円卓会議は、そのような状況であったとしても、少しずつではあるが、W C R Pが目指す「共有される安全保障」の観点による紛争当事者間の人間的なつながりの構築がなされたと実感する。

こうした会議における紛争当事国間の関係構築は難しい。それは宗教者であっても同様である。第1回円卓会議に続いて第2回円卓会議でも意見の相違はあり、対話の難しさを実感する時もあった。しかし、これも第1回円卓会議と同じく第2回円卓会議でも、誰一人とも対話を拒否し会議の場から離れる宗教者はおらず、真摯に相手の意見に耳を傾け続け、真剣な議論を続けたのである。会議におけるこの宗教者の姿勢は確実に相互に信頼を寄せ合うものになったと考えられる。

私は、第2回円卓会議において初めて、ある紛争当事国の宗教者間で目礼による挨拶が交わされたり、会議室からの移動中に会話が自発的に行われたことを認識した。これらは小さいことのように思えるが、こうした関係が自然になされ、人間同士の信頼が築かれたことこそ、大きな意味があり、これが宗教者による会議の最も重要な意義であると考える。

会議で、紛争問題の実質的な解決は政治がなされるべきであるとの意見があったが、この政治的解決の前提として、紛争当事者同士の人間的な信頼関係が決定的に重要であることは言うまでもない。こうした信頼を築いていくのが宗教者の役割である。私は、この度の円卓会議で具体的な行動を含んだ声明文の発出が可能となったのは、紛争当事国の宗教者間の信頼関係が、僅かかもしれないが構築され、和解に向けた前向きな姿勢が共有されたからであると考える。この信頼関係の芽生えと高まりこそが、本会議のこれ以上のない意義と言っても過言ではない。

4.多様な和解プログラムの実施

第2回円卓会議では、上記の声明文発出や紛争当事国の信頼構築などがなされたが、これは会議のみならず様々な行事を組み合わせた包括的な対話のアプローチが行われたことが特徴であった。

(1)全体会議とグループ討議
会議は、公式的な組織の見解が発表される傾向のある全体会議と自由な個人的意見の表明が可能なグループ討議の2つの形態をとった。また、出席者が発言内容によって様々な危害や不利益を被らないようにするための「安全なスペース」を創ることを配慮した。そのため、主催者は、討議の性質によっては公開しない会議の設置や発言内容を会議以外で漏らさないことなどを取り決めた。

(2)日本の宗教施設訪問と文化体験
紛争地域における当事者間の信頼の構築には会議の討議のみならず文化行事を組み合わせることが重要であり、これが宗教・文化外交の特徴的なアプローチである。この度は、日本の宗教の一つの特徴である和の精神を学ぶため、東京にある神道の日枝神社と仏教の増上寺を訪問した。また、大本東京本部では茶道体験、能鑑賞を行い、古くから伝わる日本の伝統文化に触れた。出席者全員がこのような体験を、時を同じく共有することが、会議だけでは図れない新たな観点による相互理解を促進したのである。

(3)国会議員との意見交換
会議期間中、衆議院第一議員会館国際会議室でのWCRP国際活動支援議員懇談会と国際I C推進議員連盟に関係する「国会議員との対話」を含む13名との意見交換も行われた。円卓会議は宗教者の話し合いではあるが、戦争の問題解決には政治が不可欠であるため、この円卓会議の目的の一つに、政治との連携も視野に入れている。そのため日本の政治指導者との会合も設けられた。

この国会議員との会議は、会議での情報は外部に公開できるが、その発言者を特定する情報は伏せるというチャタムハウルルールで行われた。UNRWAへの支援やウクライナの農産物や工業製品の輸出に関することなどが、海外宗教者から提言があった。こうした提言は今後、日本政府の政治問題として取り上げられる可能性がある。

この円卓会議は、当初より、可能であれば、紛争当事者間の宗教者による信頼の構築、共通の行動目標(声明文)の設定、そしてこの目標(声明文)の実施という道筋が描かれていた。この流れは、こうした多様なアプローチによって実現可能となると信じる。特に声明文の実施にあたっては、宗教者のみならず政治を含めた他のセクターとの連携が必要となるため、国会議員との意見交換がなされたことは意義深いものと考える。

5.海外メディアにおける配信

この円卓会議はメディア発信にも重きを置き、会議前と会議後に記者会見を開催、またW C R P国際委員会、同日本委員会、A C R P、国連文明の同盟のホームページやS N Sを通して会合の内容を逐次配信した。それによって会議終了後の3日間のうちに、これまでにバチカン、ウクライナ、ロシア、ギリシャ、タイ、マレーシア、オーストラリアなど10を超える海外メディアで配信されていることを確認できた。沢山のメディアに取り上げられ、この円卓会議のメッセージが多くの人々の目に触れることになったのも一つの成果であると考える。

3日前に終了した第2回円卓会議を振り返り、上記した5つの意義を確認することができた。このような成果を導き出せたのはW C R P国際委員会をはじめとする主催団体と後援団体の平和に向けた情熱と献身である。さらにはこの円卓会議の開催費をまかなったのは、W C R P日本委員会に関係する一人ひとりの真心のご浄財である。改めて多くの人々の善意と祈りに包まれた会議であったことを思うと、この会議の成果の貴重性を深くかみ締め、さらにそれを現実の課題解決に活かしていくことが急務であると考える。

この会議の成果は、出席した宗教者の合意としてなされたものである。先にも述べたように、これらの宗教者の多くは個人参加ではなく、それぞれの組織からの正式な派遣であり、またはそれぞれの国の政府と深い関係がある宗教者も存在している。その意味でこの成果は個人を超えて大きな影響を及ぼす可能性があるとも考えられる。しかし、私たちは「特別な奇跡が起きるのを期待するものではない」のであり、「宗教者が出来ないこともある」ということを自覚する。改めて、私たちは地道にそして着実に私たちの使命を果たす努力に専心していきたい。

世界は次から次へと起こる紛争と暴力に慄き、絶望感さえ漂っているかもしれない。そして紛争と暴力に対峙するには、それ以上の力が必要であるとし、さらなる戦いの準備を強化する風潮が蔓延っている。こうした暗澹たる厳しい国際情勢であるからこそ、信頼、対話、協調、和解、赦しといったメッセージと行動の意味がより一層、必要となってくる。多くの人々は間違いなく平和を希求している。こうした人々を励まし、連帯し、行動を共にしていくというメッセージを果断なく発信していくのがW C R Pの使命であると信じる。改めてこの第2回円卓会議を終えてこのことを実感し、そして、継続的な円卓会議の必要性を痛感するものである。

以 上

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