宣言文Declaration

第5回大会 アユタヤ宣言・1996

我ら、アジアの隣人どうし Our Asian Neighborhood

前文

第五回アジア宗教者平和会議(ACRPV)は、一九九六年十月十四日から十九日までタイの古都アユタヤで開催された。「我ら、アジアの隣人どうし」を会議の主題とし、約二七〇人の人々がアジアの諸宗教を代表して二十五カ国から参加した。さらに平和のために働く国際組織、地域組織からも来賓・オブザーバーが訪れた。

アジアの人々は、豊かな宗教的・文化的伝統、さらに思考様式と生活様式の多様性を持ちながら一つの隣人関係を形成していることを、一層明確に認識するようになった。今日の世界において、ますます狭くなる「地球村」に住む人々の共通の運命を、我々は今や認識するようになった。

ACRPVは、我々の宗教協力運動の発展過程において歴史的な記念碑となるであろう。タイの古都アユタヤで開催された今回のACRPVは、同時にACRPの創立二十周年にあたる。最初の会議は一九七六年、シンガポールで開催され、第二回は一九八一年にニューデリーで開催され、さらに第三回のソウル大会へと続き、第四回は一九九一年にカトマンズで開催された。今回の第五回大会はACRPの成人式でもある。

一九九六年のアジアは世界でもっともダイナミックで活気にあふれた地域となった。

第五回ACRP大会に先立ち、青年部会、婦人部会、専門家会議が開催された。青年部会では、「我ら、アジアの隣人どうし」という大会テーマを討議したのみならず、アユタヤ地域の洪水被災者に対する人道的救援活動も行った。青年部会は大会会場で直ちに募金活動を開始し、食料と医薬品購入の資金として少なからぬ金額を集めた。こうしてACRPの青年部会は第五回大会に新しい活力とダイナミズムを吹き込んだ。

ACRP婦人部会議もまた大会テーマについて検討し、本大会に優れたレポートを提出して貴重な情報を提供した。婦人部会議はさらに、シンガポールまたはフィリピンに女性の活力を強化する『エンパワーメントセンター」の設立を提案した。

専門家会議も本会議運営に貢献する貴重な洞察を行った。

一.共に生きる―アジアにおける平和と安全

近年、アジアにおける国際関係のシナリオは、平和、安全、ならびに良い隣人関係を志向する積極的な傾向にある。経済力が軍事力を凌ぐ影響力を示すほどになっている。新しいグローバルな価値観がより受け入れられている。民主的プロセスや市民運動が力を得ている。経済の相互依存性が高まりつつあることは、もう一つの積極的な要素である。

アジアの人々は、武器の備蓄が地域内で継続し、さらに核兵器が拡散する事を深く憂慮している。

アジアの平和、安全、ならびに良い隣人関係を促進するため、我々はアジアの各国政府に以下を訴える。

(一)人々が国と国とを自由に往来できるよう、ビザの規制を緩和すること。
(二)軍事費を減らすこと。
(三)教育と健康により多くの予算を配分すること。

我々はさらに以下を提案する。

(四)スリランカなどの紛争地域に、宗教、宗派を超えた親善使節団を派遣すること。
(五)アジア全域に共通する安全保障制度を創り出すこと。
(六)SAARCHやASEANとの関連において、地域組織を強化すること。

二.活力ある多様性をめざして―アジアにおける宗教と文化 

アジアには、民族・文化・宗教の豊かな多様性がある。

我々は、お互いの違いを積極的に認識し、共に喜び合い、相互受容と寛容の精神で隣人として生活しよう。社会において精神的物質的にぎりぎりの生活を強いられている人達を含むすべての社会集団の生活の安寧のため、我々の信仰を行動に移そう。真の宗教は、貧しい人々に尊厳を与え、解放に導く。偏見と社会的不正義に根ざす『現状維持の絆」から貧しい人々を解き放つため、宗教者のグループは適切な行動を取らねばならない。活力ある多様性とは、平和的共生と積極的な相互協力を意味する。

活力ある多様性とは、多様性を持ちながら一致することであり、諸宗教間の調和を意味する。グローバルな普遍性を持った文明が、アジアの社会でも花咲かされなければならない。

三.いのちの全体性アジアにおける自然と人間

いのちは一つの全体であり、すべては相互に関係し合っている。人間は、自然と調和して生きなければならない。

自然は神聖なものである。自然は崇拝の対象であり、けっして搾取の対象としてはならない。自然の誤った使い方や乱用はやめなければならない。利益の追求には制約が加えられるべきであり、貪欲は抑えられなければならない。

マハトマ・ガンジーは言った。「人々のニーズを満たすには十分である、しかし人々の貪欲を満たすには不十分で ある」と。アジア人のライフスタイルとして、過度の消費は避けねばならない。抑制の効かない消費主義は、環境の全体破壞に我々を導く。「富める者は、貧しい者も生きることができるよう、より簡素な生き方をしなければならない」

我々は、自然と人間の全的関係を捉えて生きるよう主張する。自然との一致、自然との相互依存を中核とする新たな人間意識を構築しょう。

豊かなアジアの文化や伝統の基盤の上に新しい地球倫理を創造するため、政府、非政府組織、財界、産業界、宗教団体、環境科学者の共同作業を推進しよう。

ACRPが、新しい地球倫理の実践のモデルとしての役割を果たそう。

四.分かち合いの社会づくりアジアにおける貧者と富者  

貧困は、アジア諸国の多くの人々に悪影響を及ぼしている。植民地主義、搾取、過剰な人口、戦争、民族紛争、自然災害が大きな苦しみを与え、特に貧者を苦しめている。富者は富を貧者と分かち合うべきである。富者による必要以上の消費はなくすべきである。

分かち合いは共同体意識に根ざし、『贈り物』や「援助』にまさる。分かち合いには「やる人』も「もらう人」もない。すべての人が尊厳を維持し、互いに敬意を払い、その意味で平等である。

アジアにおいて、分かち合いの社会づくりは極めて実現可能である。アジアの文化的背景は我々の宗教の教えによって豊かに育まれ、この試みを行動に移すにふさわしい環境を与えている。さあ、始めようではないか。

開発途上国は債務返済の重圧に苦しんでいる。国際金融機関は債権放棄の可能性を検討すべきである。

アジア諸国では、多くの人々が難民化し、住む家もなく金もない。彼らは助けを必要としている。

軍備反対運動は強化されるべきである。軍事費のたった一%を振り向けても、貧困根絶に大きな力となる。
我々は、各国政府に対し、この趣旨に沿った国連決議を尊重するよう要請する。

我々は、ACRPの各メンバーならびに家族に対し、浪費をしない新しいライフスタイルを実行するよう要請する。

我々は、地域の宗教コミュニティーに対し、富の分かち合い教育を推進するよう要請する。我々はアジアを分かち合いの社会に変容させねばならない。

五.新しいパートナーシップを求めてアジアにおける両性間世代の問題

男性並びに女性は、社会を改善する同等のパートナーとして、共同作業をすべきである。男女両性は、家族内における相互の役割をはじめとして、お互いの役割を受け入れ、認め合うべきであり、その際、権利と責任を認識すべきである。女性は、男性と平等に就業の機会を与えられるべきである。

男女両性は、組織の底辺からトップに至るあらゆるレベルにおいてリーダーとして働くチャンスを与えられるべきである。

家族を大切にするアジアの価値体系は、更に強化されるべきである。男女の役割は、平等のパートナーシップという新しい倫理に基づき再定義されるべきである。個人の態度変容と法制度の変革が共に必要である。

教育は、胎教をも含め家庭から開始されるべきであり、父親・母親は共に子供と骨年の価値観及び人格形成において、同等の役割を有している。

結論

我々は、まさにめざましく新しい『時代』と『世紀』、希望に満ちた『千年』を迎えようとしている。新しい、アジアの文明、非暴力の世界、核兵器から解放された世界に向かって前進しよう。『平和の文化を』を構築し、『戦争の文化』にとって代えよう。二十一世紀の地球倫理及び地球的霊性を築くため、アジアをもう一度立ち上がらせ、歴史的役割を演じさせよう。この高貴な使命を果たすため、共に生き、共に祈り、共に働き、新たな地球文明を創造しよう。